外断熱工法で冷暖房費を軽減・中川龍吾建築設計事務所 中川龍吾さん


 
外断熱工法を採用することで室内の温度が安定し、冷暖房費を軽減することができます。
 
外断熱工法について、中川龍吾建築設計事務所 中川龍吾さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー 中川龍吾建築設計事務所 中川龍吾 の写真
東京都練馬区関町南4-8-13
03-3929-7684

 

木造の外断熱工法にはどのようなものがありますか?

 
まず外断熱に関してお話をする上で最も大事な事で、特に一般の方が理解されているか不明な点に関してお話させて頂きます。
 
木造の場合、RC造のようにコンクリートのような蓄熱体があって、その外側を断熱する(外断熱)か、或いは室内側で断熱する(内断熱)か、といったものではないため、熱的な観点では外断熱というものはありません。
木造の場合には、柱と柱の間に断熱材を入れるいわゆる「充填断熱」という従来の断熱工法に対して、柱の外側に断熱層を設ける「外張り断熱工法」というものがあります。
 
基礎の外断熱に関しては蓄熱体(RC)に対しての外断熱というものになりますが、壁や屋根に関しては、あくまで柱や小屋組の外側に断熱材を施工するものです。
木造ではこの外張り断熱工法を外断熱といっていますが、熱的には上記RC造の外断熱とは全く異なるものです。
 
基本的には、軸組の外側に成型板の断熱材を貼るのが一般的な外張り断熱工法で、気密施工が容易、壁体内結露防止、壁内空間や小屋裏の利用の巾が広がるといったメリットがある一方、断熱材の熱痩せ等に伴う外壁の劣化・強度不足に対する懸念、断熱性能の低下、コスト増といったデメリットがあります。
 

 

RC造の外断熱工法にはどのようなものがありますか?

 
RC造の外断熱としては、最も一般的なのは樹脂系成型板を貼った上でその上に外装を施すもの、樹脂系ではなくロックウールを使用するもの、発泡系の断熱材(吹付け材)の外側に外装を施すもの、といった工法があります。
 

外断熱工法でおすすめのメーカーがありましたら教えてください

 
国内メーカーの断熱材は発泡ポリスチレンフォーム等の樹脂系断熱材ですが、私が近年採用しているものはアルセコ外断熱システムというドイツで長年使用されている工法のもので、これは断熱材にロックウールを使用しています。
 
最大のメリットは燃えないこと。
それに加えて耐久性、通気性、曲面部への対応が可能な事など、コストは割高になりますが、性能面では国産のものよりも優れたものと考えているものです。
 

外断熱工法のメリット・デメリットを教えてください

 
外断熱のメリットは何といっても室内の温度の安定性とそれによる冷暖房費の軽減にあると思います。
 
私は自宅を20年前に建てました。
1階はRC造で外断熱工法を採用、2階は木造の在来工法による家です。
 
1階では、夏季(冷房)、冬季(暖房)にいずれにおいても、前日の夜に空調を使用して、就寝前に運転を停止しても、朝までその余熱といいますが温度がかなり保たれています。
冬季の暖房は床暖房で空気を暖める暖房ではありませんが、それでも、朝起きると前の晩のぬくもりが残っているという状態です。
ですから、夜中にエアコンをつけ直すとかタイマー設定をするといったこともほとんど必要がありません。
 
2階の木造部は近年のようにグレードの高い断熱材を使用している家ではないこともありますが、そのような点では木造の住まいとは全く異なるものです。
 
つまりコンクリートという蓄熱体を夏は外断熱によって高温になるのを、冬は低温になるのを防ぎ、逆に空調された室内温度に近いものとしておくことで、室内以上に安定した温度の蓄熱体に囲まれた環境を造っていることによるものです。
 
また、外断熱のメリットとしてはコンクリート躯体の保護(中性化防止)、室内空間の有効利用、仕上げの自由度といった事が挙げられます。
 
デメリットとしては内断熱に比べてコストが高くなりますが、上記のメリットからすれば圧倒的にメリットの方が多いと考えています。
そのような事から、私が手がけるRC造の新築建物ではほぼ100%の割合で外断熱工法を採用しています。
 

 

外断熱工法の家をハウスメーカーではなく貴社に依頼するメリットを教えてください

 
私は木造住宅では外張り断熱は採用していません。
理由は、先に述べた懸念やデメリットが解決しきれていないということと、充填断熱工法でも現在はかなり性能の良い断熱工法があることによります。
 
RC住宅においては、ハウスメーカーでは前述のロックウール系の外断熱工法をはじめ、メーカーが通常扱わない仕様や特別な工法等の家は手がけないと思います。
 

外断熱工法のマンションも設計していただけますか?

 
マンションは通常手がけていませんが、お話があればもちろん対応させて頂きます。
 

外断熱工法の価格はどれくらいでしょうか?

 
まずは外壁に関してですが、どのような種類の断熱材でどのような厚さとするか、仕上は左官仕上げかタイル貼か、といった条件でかなり差があります。
 
断熱材については樹脂系の場合12,000円/㎡前後~、ロックウール系の場合14,000円/㎡。
これに専用の外壁仕上(左官)を行った場合、+9000円/㎡といった額となります(RC造の場合)。
 
最低でも20,000円/㎡を超える額の外壁工事費となり、それなりに費用がかかるものですので、建物は凸凹の少ない形態とするなど、外壁面積が少なくなるようにしたり、構造工事費も抑えるように工夫したりしています。
 
屋根については基本的には断熱材を室内外のどちらにするかの差だけですので、費用的には外断熱工法だから高くなるものではないと考えています。
 

 

外断熱工法の場合、基礎の断熱はどうするのでしょうか?

 
基礎部分も当然外断熱とします。
外周部の地面に接する部分となりますので、先のロックウール断熱工法の場合でも、ここだけは樹脂系の断熱材を使用します。
 

外断熱工法で外壁をリフォームすることも可能でしょうか?

 
木造であってもRC造でも可能ですが、木造の場合には既設の外壁の状況によってかなり手間と費用のかかるものとなります。
 
しかし、室内側から断熱改修を行おうとするとそれ以上に大変な工事になりがちですので、他の室内側の工事がない場合には外壁側から外断熱工法のリフォームを行うことは充分に考えられる方法だと思っています。
 

外断熱工法で屋根をリフォームすることも可能でしょうか?

 
可能です。
外壁のように窓や換気口などの開口・突出物がないため、外壁よりも比較的容易に改修することができます。
 

外断熱工法の施工方法を教えてください

 
外張り断熱工法は木造軸組面に断熱材を貼り、その上に防水紙を貼った後に、木製胴縁をビスで軸組に留め、その上に外壁仕上げを行うものです。
(このビスに外壁の荷重、耐力を持たせることになります)
 
外断熱工法は、コンクリート面に断熱材を打込む工法や後貼りする工法、胴縁で止める(ビス止め)工法など、さまざまな工法があります。
その断熱材の上にひび割れ防止対策を考慮したペースト等で下地をつくった上で外壁塗装を行ったりタイル貼仕上を行ったりします。
 

 

外断熱工法で結露を減らすにはどうしたらいいでしょうか?

 
外断熱工法は、内断熱工法や柱間に施工する断熱工法などと比べると、内部に結露が生じにくい構成のものですが、エアコンや床暖房のように室内で蒸気を発生させない暖房方式を採用すること、キッチンでは換気扇を使用するなどが、結露防止には最も効果的な方法だと考えています。
 

市ヶ谷の家(外断熱工法の2世帯住宅)で工夫した点を教えてください

 
市ヶ谷の家では、前述のようなロックウール系の断熱材による外断熱工法が日本にはまだありませんでしたので、ビーズ法ポリスチレンフォーム断熱材を使用しました。
この物件と近い時期に手がけた新井薬師の2世帯住宅も同じ仕様です。
 
双方とも工夫としては、建築費をおさえる為、建物形状は凸凹のあまりない単純な形の建物としたことです。
RC外断熱工法の住宅ですので、外壁に面する壁面についてはコンクリート面に直に左官仕上げを行うことができ、調湿・吸音性能がある非常にしっかりとした厚塗りの仕上を施した壁を造ることができていました。
 
前述のロックウール系の断熱材(アルセコ外断熱工法)の採用は、北烏山の住宅(2011年設計)以降となります。
 

中川龍吾建築設計事務所 中川龍吾さんの外断熱工法設計事例

   

画像 建物の名称 紹介文
市ヶ谷の家(外断熱工法の2世帯住宅)

周囲のオフィスビルや道路からの視線等からプライバシーが守られる家とするため、
外部には閉じて、中庭に開く家としました。
中庭は光を採り入れ、各室の自然な通気をはかると同時に、
上下階の各室の気配を感じることができるようにも意図したものです。