コンセプト・ターゲットに合致した和食店・杉山デザイン室一級建築士事務所 杉山 登忠之さん


和食店と言っても、コンセプト・ターゲット・メニューは様々です。
コンセプト・ターゲットに合致した店作りが重要です。
 
和食店について杉山デザイン室一級建築士事務所 杉山 登忠之さんに伺いました。
 

お話を伺った建築家

 

ユーザー 杉山デザイン室一級建築士事務所 杉山 登忠之 の写真
静岡市清水区下野西5-11
054-365-6101

 

貴社が和食店をてがけるようになったきっかけがあれば教えてください

 
駆け出しの頃から、あらゆる業態に対応できるよう研鑽を積んできました。
今でも多種多様な業態を手掛けさせていただいています。
そんな中で、私の設計コンセプトが和食店と特にマッチしていたことは、要因のひとつかもしれません。
 

和食店の内装で注意している点を教えてください

 
目的に合致していなくてはなりません。
和食店と言っても、コンセプト・ターゲット・メニューは様々です。
  
要人も訪れるような高級店・一流店であれば、お客様自身が来店時に特別な努力をしたくなるような店創り、一流の商品に負けない店創り、自ずと背筋も伸びてしまうような凛とした空間創り。
お客様があらゆることをお店側に委ねられるような構造と雰囲気と導線。
 
大衆店であれば、ハードルを上げないこと。コンセプトの全貌が一見して掴めること、いちいちスタッフに確認せずとも分かり易い構造であること などです。
 
また、ハード面において、一流店の場合、センシティヴな扱いが要求されるような素材でも率先して使用しますが、大衆店の場合は、コンセプトは守りつつもイメージよりも価格や耐久性を優先します。
反面、経年劣化を楽しむケースもありますが、この「経年劣化」の捉え方は、一流店と大衆店では大きく異なります。
アンティークとジャンクのように捉えたら分かり易いかもしれません。

 

和食店の外観で注意している点を教えてください

 
ほとんど「内装で注意している点」と重なります。
しかし、外装の場合、素材選びに対する注意は更に要求されます。
 
例えば、桧の板を使用するのであれば、防腐・防カビ加工が必要で、節のヴィジュアルが似ているからと言って、パイン材などは使用できません。
漆喰もカビ・汚れ・クラックが気になる環境では使用すべきではないでしょう。
また、木製建具を使用するケースが多いので、湿度変化による反りや、防犯についても環境にあった樹種・施錠方法を考えています。
 
※用途地域、防火地域規制によっては、木製建具が使用できないケースもあります。
そんな場合は、防火シャッターや防火壁を設けてのセットバックで対応しています。
 
建築基準法・消防法の盲点を探すのではなく、法の範囲内でコンセプトをいかに反映しきれるか に尽力しています。

 

和食店の照明で注意している点を教えてください

 
白い灯りとオレンジの灯り、冷たい光と暖かい光。
これらを「色温度」と言ってケルビン(K)で表記されます。
この値が大きいか小さいかが、大きく印象を変えてしまうわけで、例えば、一般的に言われているところであれば、洋食は寒色系、和食は暖色系が商品を引き立てると言われています。
本来なら、日本の場合、季節ごとに料理も変わるわけで、季節ごと、食種ごとの適切な色温度があってもよいわけですが、そこまではしないにしても、例えば伝統料理と創作料理では、色温度が違ってしかるべきだと思っています。
 
また、内装仕上げ材の照度補正係数は色温度の数値以上に視覚的印象に影響を与えます。
安易に「和食店であれば2700K」などと決めてしまうことはできないので、その空間、その目的に応じて、色温度を変化させています。
 
更に、同じように「お料理を照らす」という目的の照明であっても、全体照明の中にあって照度と演出を確保する場合と、局所照明によって確保する場合では、後者の方が色温度を高くする必要があると考えて演出しています。
 
照明器具&照明方法の選択も重要です。
見せる照明と見せない照明。
デザイン・コンセプトを反映してくれる照明器具以外は、ほとんどインダイレクトを採用しています。
 
特に和食店の場合、照明器具でコンセプトを反映することに、やや無理を感じています。
ヨーロッパのような、照明器具自体が持つルネサンスの象徴的な意図を和の照明器具に感じないからです。
照明器具でコンセプトを表現しようとする前に、空間全体にコンセプトが反映されている必要があり、そうであれば、演出的な照明器具は、最低限のエッセンスでよいと考えています。
 

銀座小十の設計で工夫した点を教えてください

 
銀座小十のオーナー料理人 奥田氏は、世界が認める日本を代表する日本食料理人です。
「千利休が今生にいたならば・・・」が奥田氏によるコンセントでした。
安土桃山時代から江戸時代への数寄屋の変遷、茶の湯の精神「詫び」という美意識について、学び直し、旧銀座小十にしげく足を運び、銀座のお客様の傾向、導線などを洗い直しました。
 
一流店に相応しいお客様との距離、広さ、高さについても、再検証・再検討しました。
その上で考えたことは、千利休の時代の数寄屋を銀座5丁目にそのまま持ってきたのでは、ストイックすぎるのではないかということでした。
根本的に商売である以上、お客様に強いることが多すぎてはいけない。
 
※ちなみに「スタッフの作業歩数が3歩増えたとしても、お客様の歩数を1歩減らすことができれば」というのが、私のサービス業設計のコンセプトの根底にあります。
 
私が考えたのは、「現代の商業施設に於ける数寄屋」(Neo Sukiya at Ginza)でした。
伝統を守りつつも、不自由の無いように。不快の無いように。
これが私の目標でした。
 
私は、あらゆる物件で、「仕掛け」を大切にしています。
「仕掛け」とは、リピートする毎に新たな発見ができて心が温まる工夫です。
銀座小十の場合、待合の足元にさりげない空間と緑、銀座5丁目に相応しい斬新なつくばいとおくゆかしい水庭、無駄を省いた空間と機能美の組み合わせ、ミリ単位の繊細なディティール。
など、言われてみて気づく、気付いたら頬が綻ぶ、そんな「仕掛け」をいたるところにちりばめています。
 
※よろしければ「三っ星料理人、世界に挑む」(ポプラ社)のP20~P27をご参照ください。
 

「季節のお料理辻むら」で、工夫した点を教えてください

 
当初、現存の住宅を増改築というご要望でスタートしました。
しかし調査してみると、老朽化が著しく、マテリアルを流用して新築することになりました。
使用可能なものは、用途が変わってもできる限り再利用したいという私の想いに、クライアントも賛同してくださいました。
建具も建具のみならず、構造材も構造材のみならず、再利用させていただきました。
 
もっとも工夫が必要とされたのは、既存マテリアルと新建材のギャップでした。
ジョリパットは、所々手や指で仕上げました。
新建材の平べったい感じを克服するためです。
 
柱は、3寸角で華奢な印象にこだわり、化粧柱の角は、ドライバーの柄で潰して既存マテリアルとのギャップを低減しました。
外壁の外側に、中庭を挟んで、桧の簡単な塀を設けました。
外壁のサイディングに視線が届く前に、素朴な塀で視線を止めるためです。
既存マテリアルとのギャップを抑えるのには、塗装は非常に重要で、塗板サンプルは何枚作ってもらったでしょうか。
 
少し前までそこに存在していた旧家と同じ想いを味わっていただけるように努めました。
 

 

土地・テナント探しから相談にのっていただけますか?

 
物件探しこそが重要と考えていますので、多くの場合、共に動かせていただいています。
コンセプトを共有させていただけていたなら、40年以上この仕事に携わってきた経験による直感が働いてしまうものです。
 
業種業態、コンセプト、ターゲットが分かってくると、ロケーションが浮かんできます。
広さや、何階がよいのかなどまで浮かんできてしまうものです。
 
何百件と手掛けていますと、最近ではこの直感は、まず外れたことがありません。
直感というよりも、経験に培われた理論が即座に働くのだろうと思います。
 

居抜き物件のリニューアルにも対応していただけますか?

 
もちろんです。
経営が成り立つことで、会社を運営できる・生計が成り立つ と言ったときに、新築なのか新装なのか居抜き改修なのかは関係ないと思っています。
その上で、居抜き物件の場合、低予算でどれだけ以前とは違うものにまとめられるかが手腕であり、それは弊社の得意とするところでもあります。
 
一言付け加えさせていただきますと、「以前と違うもの」と言うのは、ヴィジュアルが変われば良いということではなくて、いかにコンセプトを反映した空間にまとめ上げられているかということです。
例えば壁紙を変えただけの場合、コンセプトを反映していれば全く違う店になり得ますが、コンセプトを反映できていなければ、「こぎれいになった」に留まってしまいます。
 
居抜き物件の場合の我々の立場としては、その業態を理解しているという最低条件の上で、色の魔術師、壁紙の魔術師であることが必須だと思っています。
 

和食店を建てたいと思っている方にアドバイスがあればお願いします

 
「内装・外装の注意点」というセグメントでもお伝えさせていただきましたが、ひとくちに「和食店」と言っても様々な業態があります。
業態よって、コンセプトもターゲットもロケーションも、そしてコストパフォーマンスも変わってきます。
しかし、何を誰にどのように提供したいかが明確になったとしても、それを共有できるプロジェクトでなければ想いは叶いません。
 
第一に重要なことは、コンセプトが明確であること。
第二には、すべてを共有できるプロジェクトを集められることだと思います。
 
設計者にしても施工者にしても、高価なのに身勝手な業者もいれば、安価でとことん良心的な業者もいます。
プロジェクトメンバーの選定に時間を費やすことは、とても重要なことだと思います。
 
和食店に限ってお話させていただくのであれば、
和食店=和の伝統 とばかりは言い切れない面があります。
 
外国の方に訪れていただいた場合、ナイフとフォークで食していただいて、いっこうに構わないと思います。
伝統をはき違えると、ストイックになってしまい、それはお客様にプレッシャーを与え、強いることになってしまう可能性があります。
このグローバルな環境において、伝統と自由は共存すべきだと思っています。
 

今後どのような店舗を手掛けてみたいですか?

 
あらゆる業態をいろんなロケーションで手掛けさせていただいてきました。
銀座、パリ、ニューヨーク、北京、バンコク、マニラ
そんな中で、新たなチャレンジというのは考えていません。
 
しかし、更にこれまで以上に、消費者やクライアントの想いに応えてゆきたいという思いが常にありますので、言い換えれば、私の能力・知識の1ステージUPというのが、常に抱く新たなチャレンジなのかもしれません。
 

杉山デザイン室一級建築士事務所 杉山 登忠之さんの和食店・設計事例

 

画像 建物の名称 紹介文
銀座小十

2010年夏からプランニングをしていました。10年末には、ほぼまとまっていました。
ところが、11年年頭、奥田氏は一流和食店をプロデュースすることになりました。そして私が8ヶ月掛けて練り上げたプランを使いたいというのです。

季節のお料理 辻むら

とても謙虚なクライアントで、私への要望をためらってしまう傾向がありました。
私の空間デザインは、クライアントのお料理にはとてもかなわないということを何度申し上げたかわかりません。

 

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