渡辺篤史の建もの探訪ー屋上デッキのある7坪の家(古林剛、アナザーアパートメント株式会社)

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感想: 

居間の床の上を、のそのそとあおむしが2匹。
ばあちゃんの家庭菜園から届いたグリンピースと一緒にやってきたであろう2匹。
ぎょぎょぎょ!!!のはずも、あおむしさんだよー!!と楽しく騒げるのは、
あおむしに出会うのが初めての小さな人が我が家にいるから。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「屋上デッキのある7坪の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/19
大らかな狭小住宅。
 
            ◇ ◇ ◇
 
建築面積7坪(24㎡)の狭小住宅。
地階、1階、2階の3層で70㎡というから、
社宅の我が家と似たり寄ったりの生活スペースだと思う。
1歳児を含む3人家族の生活というところも同じだから、
このお家の広さの感覚は少し身近に想像することができる。
今はまだそれなりにゆったり暮らせるけれど、
家族が増えたり子供が大きくなってきたら智慧の絞り甲斐がある、
そんな広さだろう。
でもこのお家で、であれば、家族の成長と暮らしの変化を楽しめると思った。
 
このお家は、各階ワンルームになっていて、
地階の寝室は将来的に二部屋に、
1階の玄関ホール兼多目的室も、今は仕切りにカーテンがあるだけだけれど、
場合によっては個室にすることも考慮しているという。
「今はまだざっくりと」
このお家の設計者でもあるご主人は、そんな言葉を使って説明されていた。
その感じが、とてもいい。
 
            ◇ ◇ ◇
 
私が暮らしを営んでいて思うのは、「完成」しないなということだ。
物の収納の仕方にしても、家具やちょっとしたものの配置にしても、
どんどん、変化する。
その時々で考え抜いて使いやすく、美しく収めるのだけれど、
ひとつ物を買ったら、新しいことを始めたら、季節が変わったら、、、
ことある毎に見直してみると、その時に合わせて、不思議とまたよくなるのだ。
お家の中のほんの一部だってそうなのだ。
お家だって、家族に合わせてどんどん変化させればいい、そしてよくなる。
 
このお家は、すごくシンプルに、空間の広がりが大切にしてあると思う。
そして家のどこをもが、きちんと外と繋がっている。
ざっくりと、でもとても細やかで柔軟性がある。
家族のその時の状況に、建てものを素直に合わせていけばいい、
ということを、とてもいい形で実現できそうだと思った。
 
            ◇ ◇ ◇
 
もうひとつ、床の仕上げ方がとても印象的だった。
1階はモルタルの土間。2階は色の少し濃い材を使ったヘリボーン張り。
地階には、節の模様が程よく楽しめる明るい色の材がシンプルに張ってあった。
 
1階全体が土間というのは、すごく面白い。
外から入ってみると1階全体が広々とした玄関のようにも感じられるし、
内で過ごせば、そこが玄関だなどと思わずに一つの部屋として空間を楽しめる。
そして、家の中だけれど外に繋がる感じがとても強くて面白い。
 
2階のヘリボーン張りは、とても華やかだった。
インテリア関係のお仕事をされているという奥様による提案とのこと。
真っ白な壁に黒い枠の四角い大きな窓という、シンプルで少し硬い印象もある室内が、
床のおかげでぐっと華やぎ、温かみが出ている。
 
地階は穏やかに、そして変化の可能性を邪魔せずに。
 
床が部屋に意思を持たせているような、そんな面白さがあった。
床でこんなにも印象が変わるのだと、改めて思った。
ざっくりと、を活かす細やかさということかな。