渡辺篤史の建もの探訪ー変型 田の字プランの家(水石浩太、 水石浩太建築設計室)

ユーザー 建もの探訪ファン の写真
建もの探訪ファン
感想: 

お花の先生のお宅の庭には、ご近所から桜が一枝出張していた。
あっという間に散ってしまったけれど、花冷えの中、今年も目一杯楽しませてもらった。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「変型 田の字プランの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/13
日本の伝統的な民家のアイディアを取り入れたお家だ。
 
            ◇ ◇ ◇
 
襖で仕切り、必要な時は大きな部屋にも。
そんな使い方ができる「田の字型」の民家のように、
この建ものの地下階と2階は、気分や用途に応じて自由に引き戸を取り付けられる。
各層まるごと1部屋のようにも使えるし、引き戸を閉めれば4つのエリアが生まれる。
その4つのエリアは、4分割された「部屋」というよりは、
メインの部屋と、それを取り巻く「縁側」のようだ。
番組のWebページによると、建築家はその空間を
「ウチ・スペース」と「ソト・スペース」と名付けている。
都心の住宅地。
「縁側」のようなソト・スペースは、隣家や道路と内とをやわらかく取り持っている。
 
地方都市の郊外で育った私は、首都圏のこの住宅の密集具合をどうも受け入れられないでいる。
たぶん、暮らし始めたらそれなりに馴染むと思う。
建物に入ってしまえば、思うほど隣家や道路は気にならないものだろうし、
小さな暮らしはなかなか快適だったりすると思う。
それでもやっぱり、満員電車に立つような感じにお家が建っているのはどうも心が窮屈で、
そういう場所に自分たちが家を建てる、家を買うという気持ちにならないのだ。
 
都心の生活をそんなふうに思う私だけれど、だからこそ、
都心の住宅のアイディアをとても興味深く、面白く見させてもらっている。
今回の建ものも、都心に建つ、建築面積9坪の決して広くはないお家。
隣家や道路との心地よい関係を作ること、限られた空間を上手に使うということの
ひとつの形として、とてもいいなと思った。
 
            ◇ ◇ ◇
 
このお家のよいところは、お家を全部、存分に使えることだと思う。
「田の字型」の考え方も然ることながら、お風呂のあり方がちょっと面白いのだ。
 
このお家のお風呂は、1階に広々ゆったり計画されている。
「お風呂場」などというより、「お風呂のための部屋」なのだ。
そしてその真っ白な「お風呂のための部屋」には、大きくて真っ白な丸型の浴槽!
両隣のサンルームと洗面スペースとの間には、それぞれにガラスの仕切りと扉がある。
サンルーム、浴室、洗面スペースは、一つの大きな部屋というふうにも捉えられる。
お風呂なぞ、毎日何時間も使う場所ではないし、
大きな浴槽はお湯をはるのが大変そう。
それにこんなに広々では、冬はちょっと寒そうだ。
それでもこの開放的で広々したお風呂は、
一日のうちの限られた「お風呂の時間」にだけ開く場所ではなく、
一日中、生きた空間としてこのお家にあるのだ。
風が通る、光が通る、私が通る、明るい空間。
真っ白な大きな浴槽は、ちょっと洒落たソファーを選んで据えたのと同じような感覚で、
目も体も楽しませてくれている。
 
そして、「変型 田の字」の形をとる地階と2階ももちろん、
引き戸の開閉によって、一時も空間が死んでしまうことがない。
お家はまるごと一日中、生き生きとしているのだ。
メインの「ウチ・スペース」も縁側のような「ソト・スペース」も、
時にそれぞれひとつの部屋として、時に部屋未満の緩衝地帯として、
時に広々の大空間として、活かされる。
 
そういうことが、日本の伝統的な民家の生活が持つ軽やかさに通づるようで
とても面白いと思う。

            ◇ ◇ ◇
 
ちょっと残念だったのは、 なんだか仮設のような印象が心に残ってしまったことだ。
これはどうも、地階と2階の「門型フレーム」がいけないのじゃないかと思う。
門型フレーム。これは構造の上でとても重要で、
また引き戸の取り付けレールとして機能しているようだけれど、
これが画面で見る限り、木目の感じがちょっとうるさいような安っぽいような感じがする。
実際に体で感じたら、無垢の木の気持ちよさや健やかさが得られるのだといいなと、
ちょっと寂しく思い出している。