渡辺篤史の建もの探訪ー角の丸いコンクリートの家(森清敏・川村奈津子、MDS一級建築士事務所)

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感想: 

今週は晴天続き。
散歩、散歩、また散歩。
健康的な春の毎日。 
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「角の丸いコンクリートの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/11
個性的な外観なのに上品で控えめ。とても感じのよい印象が心に強く残った。
 
            ◇ ◇ ◇
 
コンクリートの輪をずらしながら3段重ねた形。
大きな窓やテラスも「コンクリートの輪」の内に隠されていて、どこか閉鎖的。
そんな建ものの中だけで世界を完結させてしまうような様子が
住宅というより、商業施設か小さな美術館みたいだ。
こんなに閉じていて、心地よいのかしら?
それが最初の印象だった。
けれどもじっくり中を紹介してもらって、そして改めて建ものの佇まいを味わうと、
この建ものが持つ感じのよさがちゃんと私の心に響いてきた。
  
            ◇ ◇ ◇
 
大きくはない窓やコンクリートの輪で囲われたテラスからの光は、
ぱあぁ!っとお部屋の隅々までを満たすようなものではない。
でも、ともに日中お勤めに出られているご夫婦の生活‘スタイルを考えれば、
むしろ、がっちりと囲われたこの形はとても過ごしやすいのだと思う。
夜、お部屋に電気を灯してからも、テラスから外の気配を楽しむことができるし、
日中、留守にするのにも安心感がある。
そして夜、家族が集うと、ますますこの建ものは生き生きとする。
あかりを柔らかに街におすそわけするのだ。
”街に置かれた間接照明のよう”
番組では、この建ものの夜の佇まいをそんなふうに紹介していた。
まさに、そんな感じだった。
その佇まいが、本当に素敵だった。
 
街のみなさま、いつもお世話さまです。
私たちは、今日もここで暮らしています。
よろしくお願いしますね。 
このご家族は、建ものは、そう街に語りかけているみたいなのだ。
感じよく、控えめに、そして温かに。
 
建ものは、街をつくるひとかけら。
明るく窓を開いて健やかな暮らしを営むことは、街を素敵にする。
美しい窓、手入れされたお庭、楽しい形の屋根、、、みんな街を楽しくする。
家をつくる時も、暮らす時も、そういうことをちゃんと心に置くことは、
とても大切なことだと私は思う。
コンクリートの輪はがっしりと家族の暮らしと街とを隔ててしまうようだけれど、
この建ものもこのご家族の暮らしも、ちゃんと街に向いているのだ。
 
設計を担当された株式会社MDSの設計理念に、
「魅力的な佇まい」
というフレーズを見つけることができた。
魅力的、という言葉も、佇まい、という言葉も、どちらもすごく適切で、
その言葉の意味がこの建ものをみてすごく心に響いてくる。
 
            ◇ ◇ ◇
 
ちょっと面白いこともあった。
階段脇の壁面は、3階部分までずーっと本棚になっていて、
その棚は。現実的に本の出し入れが実用的でない高さにまで達している。
 
その棚をどうやって活用するのかというと、
階段を隔てた対面の寝室に室内窓を設けてあって、
その窓から、挟んで物をつかめる爪が着いた長いアームをのばすのだ。
こうやって、、、と実践するご主人は、ちょっと照れくさそう。
 
今はまだ、そんな高いところまで本で埋められているわけではなくて、
小さな人形なんかが、”つまんでみるターゲット”みたいに、
ちょこん、ちょこんと置かれていた。
とってもシックで落ち着いた雰囲気のお家なのだけれど、
そんなちょっとシュールな楽しみを盛り込んでいるところが妙におかしくて、
時折、その絵が私の頭の中をシューシューと行き交って笑わせてくれる。