渡辺篤史の建もの探訪ー庭を抱く自然素材の家(高野洋平、高野洋平建築設計事務所)

ユーザー 建もの探訪ファン の写真
建もの探訪ファン
感想: 

空気が緩む日。
まだまだ冬の景色だけれど、春まであと一歩、と楽しくなる。
今年はとうとう、目がかゆいけれども。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「庭を抱く自然素材の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/7
質朴で透明感のある建ものだなあと思った。
 
            ◇ ◇ ◇
 
ひな壇状になった住宅地の角地。
奇麗な長方形の敷地は、たっぷりの広さがある。
独立した和室、LDK、独立した和室、主寝室、子供たちの個室、書斎、そして広いお庭。
それらをきちんと確保して、美しく配置されたお家。
首都圏でもこんな形でお家がつくれたら理想的だ。
この「無理のない」という贅沢さ!
それでいて、不思議と質朴な、簡素なという印象を強く受けた。
 
建ものは、あくまでニュートラルに、シンプルに、とでもいおうか。
すっと一歩引いて暮らしを支えてくれているような、
そんな控えめで主張のない建もののように感じた。
 
その印象は、すっきりとした箱型の建ものであることや、色合いのせいかもしれない。
真っ白の漆喰や、節のはっきりした木目の見える家もまた力強いけれど、
この建もの色合いは限りなく優しい。
少し緑がかったようなLDKの砂漆喰はとてもやわらかだし、
床や天井、廊下の壁の木は、木目の個性おとなしく、あくまで静かな背景になっている。
しゅっとした現代的な感じもするのに、古い父の実家の廊下を歩く時の記憶が
ぱっと頭の中に広がった。
 
建築家が設計したダイニングテーブルや造作のウッドデッキの長いテーブルも、
あっと驚くような奇抜さや色気はないけれど、
まるで建ものから生えてきたようにこの建もののものとして、とても美しかった。
 
            ◇ ◇ ◇
   
お部屋の大開口は、とても開放的で気持ちが良さそうだと思う一方で、
南側、東側の隣家との関係がなんとなく気になった。
どちらの境界もがっしりとした塀を設けているわけでなく、低く細いフェンスがあるだけ。
お隣さんにも大きな窓はなく、目と目が合ってしまう、というわけではなさそうだ。
しかし、こちら側にあまりに開放的な大開口があるだけに、
お隣さんは、なんとなくお庭やお家に目を向けてはいけないような気になるような気がした。
 
今はこの広々としたお庭で、少年野球で活躍中のお子さんが練習をしたり、
キャッチボールを楽しんだりされているご様子。
だから、芝生が広々、それだけのお庭もよいかもしれないけれど、
境界をやわらかにするような樹木や花、
お隣さんの目をも楽しませるような果樹のあるお庭に、
なっていったらいいのになと思った。
 
我が家の窓からも、お隣さんは道路一本隔ててすぐだ。
それでも、お隣さんの柿の木にやる目線に後ろめたさがないから、
窓を開けて深呼吸のひとつもできる。
 
道路からは隔てられた別世界のお庭。
素敵な別世界は、お隣さんとの素敵なつながりであるのもいいと思う。