渡辺篤史の建もの探訪ー時と共に歩む赤錆壁の家(菅原大輔、SUGAWARADAISUKE +東京事務所)

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感想: 

お正月のお華を生けた。
掃除もまだちっとも終わっていないけれど、
お華を生ける、もうそれだけで、準備万端清められたと満足した。
 
            ◇ ◇ ◇
今回の建ものは「時と共に歩む赤錆壁の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/48
 
このお家は、建築家の自邸。
自邸といってもクライアントはお母さまのようで、現在のところ母と息子の二人暮らし、
という様子だった。
息子である建築家自身の暮らしの匂いはあまり感じられなかったけれど、
お母様の暮らしぶりがとても軽やかなのが印象的だった。
 
            ◇ ◇ ◇
 
このお家は、1軒家といえども、家族のためだけの閉じられた家ではない。
1階の一部屋には下宿を受け入れることを想定しているし、
時折開くホームパーティーでは、たくさんの人をお招きするという。
息子である建築家の部屋は、ほとんど寝起きのためだけのようなさっぱりとした一部屋。
お母様の個室も、広いとは言えない寝室一部屋。
あとは自分たちのためだけではない空間に、自分たちのためだけではない物が据えてある、
という感じ。
個人的な空間がぎゅっと個室に集約されている様が、なんだかとても見事。
そして、軽やかに感じた。
 
両親が住む家、実家、というと、その経て来た家族の歴史の分だけ物も増えて
いつでもどっしりそこにあるものだという感じがする。
私は実家を出る時、それなりにきちんと片付けをしたけれど、
まだちょっと処分できないものを押し入れの一角に残してきた。
小学校の時の図工の作品とか、高校の数学の教科書とか、
今はもう着ないけれど、お気に入りだった洋服とか。
本棚にだって、児童書やら宝物がまだ並んでいる。
出産のために里帰りすれば、私が赤ん坊の時に着た肌着や初着、
祖母が編んだ美しいブランケットなどがちゃんと出てきた。
私も姉も家を出たのだから、部屋も収納もガランとしてもよさそうなものだけれど、
そういうわけにもいかず、実家はどっしり変わらずそこにある。
私は実家のことを思い起こし、そんなどっしりの安心感を愛おしく思うと同時に、
私の両親にも、このお家のような軽やかさをもぜひ楽しんでももらいたいなと思った。
このお家は、子育てを終えたステージを楽しむ家としてとてもチャーミングだと思うのだ。
一部屋の世界に入るだけの持ち物で潔く。
そしてお家は閉じないで、どんどん素敵な人々に入り込んでもらう。
 
            ◇ ◇ ◇
  
このお家のテーマは「時と共に歩む赤錆壁の家」とある。
確かに外壁は、時間とともに風雨が味わいを添えていくようだ。
それでもなぜか建物の中は、何年経っても変わらないのだろうと思わせる何かがあった。
たんたんと時を重ねて歩んでゆくのとはちょっと違って、
いつも新鮮で真新しい空気が流れ続けて、いつも真っ新。
そんなふうに思わせる、楽しい建ものだと思った。