渡辺篤史の建もの探訪ー古民具が似合う懐かしい家(安井正、クラフトサイエンス一級建築士事務所)

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感想: 

先日帰省した時、義母が友人から譲り受けたという乳母車に娘を乗せて散歩してみた。
ベビーカーでなく、乳母車。
桃太郎号と名付けられているそれは藤で編み上げられていて、
側面にはお船のレリーフが見事だった。
がっちりとベルトで固定して乗せるベビーカーとは違うこの自由さ!
小さな人のためのこんなに素敵な乗り物、今時なかなかないと思う。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「古民具が似合う懐かしい家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/45
人が集まる、大らかな家だった。
 
            ◇ ◇ ◇
 
大学生の時、下宿していた友達の部屋に、なにかというとよく集まった。
いつもきちっと清潔に整えられた部屋だった。
すごく社交的な子というわけではないけれど、その部屋に、その子のところに
みんなでいつも集合した。
 
以前住んでいた近所に、ことあるごとにポトラックランチ会を開いてくれる友達がいた。
集まるみんな、家は近いのに、いつもきまってそのお家で。
そろそろかしら?、そういうタイミングでいつもきちんと日程調整のメイルがくる。
いろいろ過不足なく準備していてくれて、そして集まれば、
準備も片付けも自然とみんなで手伝える気楽さが、その友人にはあった。
だから、お家にうかがうことに恐縮することなく、いつも楽しいランチ会をした。
 
父の実家にひとりで住む伯母のところに、私はしばしば遊びに行く。
わざわざ「お招き」などしないであろう伯母だのに、私がいつも訪ねるように、
何人ものお友達がぽつりぽつりと定期的に訪ねてきては、
お料理やおしゃべりを楽しんでいるようだ。
 
こんなふうに、「人が集まる家」というのは不思議とある。
私はそんな家が大好きで、できるなら、私もそんな家にしたい、そういう人になりたいと思っている。
 
このお家もまた、たくさんの人が訪れる家だ。
訪れた人は皆、自分の家のように心底くつろいで楽しい時を過ごしているようだった。
人が集まる家というのは、「家がいい」というより、そこに住む人の力なのだと思う。
でもこの家をみると、ああ、人が集まる家だなということを確かに感じる。
この家に住むご家族の、人を引きつける魅力、人を受け入れる大らかさが
そのまま形になったようだった。
 
外玄関をくぐってピロティーの向こう側に広がる中庭、
玄関からそのまま繋がる畳敷きの多目的室、
傾斜した天井がゆったりとした気分にさせるリビングダイニング、
リビンングに面した明るいテラス、
そして、テラスにも繋がるお風呂までも!
この家を訪れた人は、ここに住む家族の一員のような気持ちになって、
この家の中に、たくさんの心地よい場所を見つけることができそうだった。
大人も、子供も。 
 
          ◇ ◇ ◇
 
タイトルにある通り、このお家には奥様が集められた古民具がたくさん飾られている。
そんなご家族と「古いものを活かした家づくり」に取り組む建築家が出会って家づくりをしたのだ’。
なんとよい出会い、素敵なことかしらと思う。
 
家も物も、古いものには今の時代とは違う時間の流れの中で作られ、使われてきた魅力がある。
時間が育ててくれた味わいがある。
それをしっかりと織り込んだこのお家をみて、
私は再び、娘のために桃太郎号をこの狭い社宅に連れてはこれないかと、
その格納場所を見つけるべく、頭をひねっている。