渡辺篤史の建もの探訪ーアルゴリズムから生まれた家(柄沢祐輔、 柄沢祐輔建築設計事務所)

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建もの探訪ファン
感想: 

とにかく、どんどん冬らしくなっている。
今月後半と12月の予定を確認して、ひえー!と思う。
何もせぬまま年越しにならぬよう、しゃんとする今日。
 
            ◇ ◇ ◇
 
さて、今回の建ものは「アルゴリズムから生まれた家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/16
これが住宅!ひえー!である。
 
            ◇ ◇ ◇
 
番組Webページの「建築家からのひとこと」を改めて読んでみた。
「アルゴリズムという方法論によって、ネットワーク型の建築を立ち上げました。」
意味がよく分からない。
なにしろ、「住宅」として「ネットワーク型の建築」が「立ち上がった」のだからよく分からない。
よく分からないけれど、よく分からないなりに、画面からでもその空間が生み出す不思議な感覚に包まれた。
 
入り口を入ると真っ白。
無機質でつるりとした材質の床やら構造、ポリエステル素材のカーテンで、視界は真っ白。
吸い込まれるようだ。
すごく、自分自身の五感が研ぎすまされるような感じがする。
 
玄関ホールに立つと、構造が菱形の窓のような視界をつくって、その先には、
木製のチェストやら、黒い椅子やらがちら、ちら、と見える。
宇宙空間にひとり入り込んでしまったような心細さが、そんな有機的な生活用具の破片を目にしてちょっと和らぐ。
 
無機質な白い床には、サイザル麻やビニルシート、フローリングなど、空間の用途に適した素材が敷かれている。
そのおかげで、一度は高まった緊張感が自然に和らぎ、いろんな感情や感覚が戻ってくるような気がする。
ほっとソファーで一息ついたり、ぐっと集中して机に向かったり、
生きるために何か腹に入れようという気持ちになる。
 
半地下になった洗面所とお風呂は無機的で、確実に自分自身を感じられる空間だろうと思う。
朝起きて冷たい水で顔を洗うと、ああ、覚醒した、と思う。
用をたせば、ああ、排泄した、と思う。
湯船につかれば、自分の肢体をああ、こういうものだ、と再確認して、
体が心地よく温まるのを感じ取るのだろう。
 
田の字型に配された床が段々になっていて、ちょっと複雑に階段で繋がる。
効率的な動線ではない。
すぐ隣の床に移るために、階段を降りて上って迂回する。
きっと最初はもどかしさがあるに違いない。
けれど、これは一つの論理に従った建てものの構造がつくるもどかしさ。
坦々と、そういう動線を体に染み込ませる。
整理の悪い家の気持ち悪い動線とは違う心地よさがあるように思う。
 
建てものの底には寝室がある。
黒いカーテンでぐるりベッドを囲んだその空間に寝そべる。
ぐぐぐっと地面に引っぱり込まれる感覚があるかもしれない。
時には、地面から吹き上げる力に乗って真っ白な空間に放り出されるような心地もするだろう。
 
            ◇ ◇ ◇
  
この建ものの主、清水氏は、言葉少なに、坦々と、複雑な階段を上ったり降りたりして
この建ものを案内されていた。
こういう空間で毎日を生きることがどういうことか、私にはちっとも想像できないけれど、
清水氏はとても自然にこの空間で生きていらっしゃるように見えた。
鋭く研ぎすまされた体全体でいろんなことを感じとって、
そして、そんな自分をとても客観的に、冷静に見つめながら、
坦々と、坦々と、毎日を送っていらっしゃるのではないかしら。
 
建築家は、確かに「清水氏の住宅」を設計したのだなと思う。
私は、清水氏をよく知らないけれど、そう思う。