渡辺篤史の建もの探訪ー三角形&段差地を生かす家(河辺近、 高橋宏治・ ken-ken有限会社 一級建築士設計事務所)

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建もの探訪ファン
感想: 

新しい建ものが建つと、それまでそこがどんなだったか、あっという間に忘れてしまう。
近所の雑木林も、少し前に宅地開発計画の看板が立ち、道路脇の雑草が刈られ、
造成工事用の柵が置かれた。
このたかーく伸びた木々がなくなるのはとっても寂しい。
きっと、こんなに広かったかしら、と思うほどに土地はきれいにならされ、
幾棟もの住宅が建ってゆくのだろう。
明るい住宅地になってしまった後、このちょっと鬱蒼としたこの道の感じは思い出せないに違いない。
 
            ◇ ◇ ◇
 
さて、今回の建ものは「三角形&段差地を生かす家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/30
都会的で垢抜けた美しい建ものと暮らし。
 
            ◇ ◇ ◇
 
三角形で段差のある50坪。
建ものが建つ前は、どんなだったのだろう。
この三角形は、どんなふうにそこにあったのだろう。
土地が三角形だと認識できないほどに、木やススキで覆われて隠されていたか。
タンポポがぽんぽん咲いて、つくしがツンツン毎年生える土手だったか。
それとも、別に建ものがあったか。
こんな建ものが建つなど、誰も想像していなかったのではないかしらと思う。
そして、ご近所さんはもう既に、以前のこの土地の姿をちっとも思い出せないに違いない。
でも、こうして素敵な建ものが出現すれば、それは、ちょっとうれしく楽しい風景の変化だ。
 
            ◇ ◇ ◇
 
目の前の公園の緑、遠くのビル群、近所の住宅街。
ぐるりとこの土地をとりまく景色はとっても多様性があって、
そして何より、四季折々の表情をみせてくれる木々に見守られている。
それらをぴたっ、ぴたっと切り取った絵のような窓、
魔法のように現れるスキップフロアの伸びやかな空間。
端布が宝物になるような面白さ。
 
土地探しから建築家に相談されたという。
建築家って、すごいなあ、楽しいなあと改めて思う。
 
もちろん、土地は大地。
崩れたり流されたり、土地に無理をさせるリスクだって、幾分あるのかもしれない。
土砂崩れや水が溢れる災害が多い昨今、そこのところはしっかり大地と相談して、
無理なく使わせてもらう。
 
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先週にひきつづき、設計を担当した建築事務所のWebページを開いてみると、
この建ものの美しさになるほどと思う。
 
特別に変わったことは行わず
普通のことを正確に正しく行い
形をととのえると
使いやすく美しいトコロが出来るはず。
 
そう、トップページに掲げてある。
まさに、そういう美しさだなあと思った。
美しくしようとこねくり回した感じがしない。
すーっと素直に体に通っていくようなすっきりとした空気が流れていて、
でもただ「シンプル」なわけでなく、ととのえられた美しさ、品のよさがしっかりとある感じがした。
都会的で垢抜けたこのご家族によく似合っている。
 
            ◇ ◇ ◇
 
ここでの生活をイメージしてみると、日々の雑踏がちっとも感じられない。
思い描かれるのは、夕食後、お酒でも少し飲みながらくつろぐ様子だったり、
休日に友人を招いて楽しいランチ会をする様子であったり、
時間に追われず楽しんでお料理する様子であったり。
生活感、がないのだ。
我が家はせめて、清い生活感で満たしたい。