渡辺篤史の建もの探訪ー9坪×10m 縦型ワンルームの家(田中昭成・ 田中昭成ケンチク事務所)

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建もの探訪ファン
感想: 

我が家の台所は現在、ゴミ箱並べて封鎖中。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「9坪×10m 縦型ワンルームの家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/24
 
建築面積9坪の狭小住宅。
建ものの中心を背骨みたいに螺旋階段が貫いて、1階から屋上までひとつなぎ。
その螺旋階段をつたって、光や風、熱が循環する。
1階には寝室。2階には螺旋階段に合わせてて高低差のある居間と台所・食堂。
敷地面積15坪。建築面積9坪。
面積が限られている分、ダイナミックな吹き抜けが伸びやかな、個性的な建ものだった。
 
個性的で、広くはない建ものである分、どう住まう?どう暮らす?を試行錯誤しながら住みたい家だと思う。
 
            ◇ ◇ ◇
 
今回は、番組を見終わってあまりいい印象が残らなかったものだから、その「いい印象でない」部分が何なのか、思い出しては考えている。
 
まず、どこか「一時的」とか「簡易的」という感じがした。
ポリプロピレン製のパネルが、ほどよく光を通す壁や扉として使われていたからだと思う。
光を通すと雰囲気の出るような加工がされていたけれど、ポリプロピレンというと、なにはともあれ無印良品の衣装ケース。
衣装ケースの中に入っている気分になって、窒息するのではないかと心配になる。
そして手で触れた時の感触の軽さを想像すると、押し入れの中だけでなく毎日目に触れ手で触れて長く共に生活するには、それは頼りないように思うのだ。
障子や白い曇りガラスの方が、もっともポリプロピレンよりずっとはかないのだけれども、息がよくできる気がするし、ひたりと冷たいガラスの感触やざらりと優しい和紙の手触りは、想像しただけでも心地よい。
 
そして、キッチンや収納を自分が使っているのをちょっと想像してみると、しっくりと動ける気がしなかったのだ。
もちろん難なく動けるけれども、どこかちょっとずつ無理をしなくてはいけないような、そんな気持ち悪さが体に残る。
娘が這い入ってこないように、台所の入り口に簡易的にゴミ箱を並べている私は、今、切に、気持ちよく障害なく動きたいから、そのことにはうるさい。
 
所有物をつぶさに把握して、きちんとすべてが収まる収納スペースを確保できるよう、きめ細やかな設計がなされた建ものもあるけれど、この建ものは、どう収めるか、そしてどう暮らすかは住む人に任せている。
子供が大きくなるなど、必要になったらリビングの上に床を張って1部屋増やせる。
むき出しになっている木構造には、自分達の手でペンキを塗って仕上げたように、これからも自分達で手を加えてメンテナンスしたり、棚板を設えたりもできる。
そんな柔軟性も備えている。
だからこそ、この建もののこの空間を生かして暮らすならば、使いながらたくさん試行錯誤して、どんどん「自分達の居心地のよい家」にしていかなくてはいけない。
 
                   ◇ ◇ ◇
 
ちいさな敷地に住む、というのは、忍耐のいることだと思う。
 
私は社会人になって始めた一人暮らしは、駅まで5分、最寄り駅から東京駅まで12分という好立地の小さなワンルーム。
必要最小限の台所道具を丁寧に選んでそろえ、厳選して洋服を実家から持ち出し、季節の買物もずいぶんと慎重にしていたと思う。
そんな慎重さのおかげで、狭いながらにすっきりと片付いた部屋で毎日過ごせるのは気持ちがよかった。
一方で、ほしい、買ってみたい、試してみたい、という欲求を空間と戦いながらうまくセーブするのは、なかなかストレスのたまることだった。その窮屈さは、今思い出してもちょっと息がつまる。
 
それでも、今ようやく自分で家族との暮らしを築くようになって、洋服やお道具もいろいろ失敗も成功もしてきて、自分たちの暮らしのことがちょっと分かってきた。
だからこそ、今、
「もし、小さな敷地に暮らしを収めるなら、」
そんな視点で自分の持ち物を見直してみたり、空間の使い方を考え直してみるのも面白いと思う。
よいエッセンスが抽出できそうだ。
 
小さくも、伸びやかで個性的な今回の建てもの。
いい形で「建もの」から「お家」になってほしいなと思う。