渡辺篤史の建もの探訪ー空を切り取るスロープテラス(布施茂・fuse-atelier、武蔵野美術大学建築学科 布施スタジオ)

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建もの探訪ファン
感想: 

「お産の促進には適度な運動!」と、毎日せっせと実家の庭を掘り返していたことが功を奏し、先月下旬、しゅぽん!と娘を出産した。犬張子やキルト、祖母の手編みのベスト。私や主人が赤ん坊だった時に方々からいただいた品々は、再び日の目をみて嬉しそうにしている。
今週は、久しぶりの「建もの探訪」。
 
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今回の建ものは「空を切り取るスロープテラス」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2014/1
コンクリートのオブジェ。渡辺篤史さんは、「すばらしい建築表現です!」と、評していた。
 
「住まい」というにはちっとも生活感がなくて、機能的ではなさそうで、きょとんと番組をみていた私だったけれど、「すばらしい建築表現」という渡辺さんの最後のコメントに、なんだかとても納得した。建築って面白いのだった。
 
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私がここを「住まい」とすることを想像すると、しっくりこないことがふつふつ思いつく。
 
1階部分は窓無しで、食堂・台所と車庫とは一体となった空間。
ガラスのパーティションで仕切れるとはいえ、「ガレージでごはんを食べる」のも、「台所に車を入れる」のも、どうも気が進まない。衛生的にどうかと思うし、せっかくなら、車より清々しいお外の緑を眺めながら朝食を食べたい。
 
1階の食堂・台所と2階のリビングは、吹き抜けになった一続き。
コンクリートの無機質な感じや大きな窓が、良くも悪くも空港の出発ロビーのような雰囲気。一人でリビングで過ごすにはそわそわと落ち着かないような感じがする。冷暖房の効率も悪そうだから、貧乏性の私は、きっと一日のほとんどを小さな「予備室」か「仕事・趣味部屋」に籠って過ごすことになるのではないかしら。
 
面白いのはテラス。2階のテラスからスロープをつたって屋上テラスへ一続き。
「テラス」といったら、第2のリビングみたいにして、おひさまサンサンと風を楽しみたい。でも、この家の2階テラスは、ぐるり壁に囲まれた空間で、小さな商業施設の階段の踊り場みたいな感じがする。そういう囲まれた雰囲気も好きだし、スロープを伝って屋上テラスへ上がれば見晴らしのよい丘の上に上ったみたいな気持ちよさが味わえるけれども、私の日常の中では、おひさまサンサン・・・のテラスの方が暮らしにしっくりとくると思う。
 
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リビングで腰をおろし、タイトルの通りに潔く切り取られた空を見上げる。
スロープテラスを上って、屋上テラスの丘に立つ。
窓無しの1階を抜けて、リビングの大開口に向かう。
 
「建築表現」を大切に味わいながら暮らすって、どんな感じだろう。
「暮らしやすさ」とは違う感性をゆさぶられるものを、毎日たくさん受けとることができるのかもしれない。アートを手に入れて暮らすのと同じで、建ものは暮らす人々のその時々の心模様に寄り添って、その人々のかけがえのないものになってゆくのかもしれない。
 
こんな建ものを自分のものにすることはなかなかできないけれど、チビを連れてどんどん外出できるようになったら、たくさん建築を体験しに出かけたい。