渡辺篤史の建もの探訪ー交差する切妻 星型天井の家(木津潤平、 株式会社木津潤平建築設計事務所)
今日は栗の鬼皮を剥いて渋皮煮を作る予定。
おいしいうれしいのための一仕事。
◇ ◇ ◇
今回の建ものは「交差する切妻 星型天井の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/36
日本家屋の簡素で神聖な美しさ、現代的で洒落た雰囲気を持った
とても素敵な建ものだった。
◇ ◇ ◇
この建ものの、何よりの見せ場は星型天井。
とても大胆なものだけれど、奇をてらうというものではなく、
必然から生まれたといえるその形だからこそ、神聖で美しい、
そんな印象を受けた。
この建ものが建つ敷地は、L字型。
その敷地の形に合わせるように、建ものも切妻をふたつ合わせたL字をしている。
そうして切妻が交わる部分に、星型が生まれたのだ。
星型を生かして開けられた三角の高窓から、光が豊かに入ってくる。
何とも言えない美しさだった。
眺望が素晴らしい窓や、緑に囲まれたテラスなど、
毎日なんとなしに目にしたり、ほっとしたい時に眺めたり、
外との繋がりを感じながら、元気になれる場所の形はいろいろある。
今回は、建ものにはから望む「素敵な街の眺め」はなかったけれど、
高窓から感じる外がとても印象的だった。
星型天井は、その形が美しいだけでなくて、
窓の外を眺めるように豊かに外を感じられるところが
何より魅力的で、心のよりどころになる絵なのだなと思った。
◇ ◇ ◇
部屋のあり方や動線からも、 私はこの家をとても心地よさそうだと感じた。
このお家は、1階は舞台美術家である奥様のアトリエと風呂トイレ、
2階は一続きの空間になったリビング・ダイニング・キッチン、そして和室。
玄関を入ると2階へと続く階段と、奥のアトリエへと続く廊下となる。
階段を上がると小さな板の間になっていて、左手は客間としても使えるような和室、
右手は一段上がってダイニング。
ダイニングの奥はリビングが続いて、その奥にはもうひとつ階段がある。
小さなお庭を見ながら下るその階段の先は、庭への掃き出し窓がある踊り場を経て、
静かなアトリエになっていた。
アトリエの奥の一角にはクローゼットがあり、お仕度部屋のような空間が
棚ひとつでちょっと区切られていた。
アトリエを出ると風呂トイレはすぐそこ。そして玄関へ続く廊下へ出られる。
大きなお家ではないけれど、階段が2つ。
お客様をも気持ちよくお通しできるピリッと美しい階段と、
ご夫婦の居場所をつなぐ小さな階段。
ぐるっと回れることで、毎日の暮らしはとってもスムーズだし、
緩やかに公私をも分けられる。
すごく快適な暮らし心地だろうなと思った。
アトリエのあり方もすごく素敵だと思う。
仕事場というと、ぴっちり籠って集中できるようなものをイメージしてしまうけれど、
このお家のアトリエは、ご主人がいる居間、ご主人も使うお仕度部屋とは
扉もなく一つながりになった空間の中にある。
階段による緩やかな隔たりと、お互いを気遣える動線が生きていて、
とても温かな、二人暮らしのためのお家だなと思った。
和室も、小さいながら和室のよさをとても大切にされた空間だと思った。
リビングやダイニングとは一繋がりでありながら、
段差と板の間というこれもまた緩やかな隔たりが設けられていて、
ひとつの静かな場所として独立されてもいる。
そして玄関からまっすぐにお客様をご案内できる場所にあるということも、
私はとても使い勝手がよいと思う。
天井も楽しい。
和室の部分だけ簀の子の天井が低めに設けられていて、
その天井の上は小さなロフトのようになっている。
低めの簀の子天井は光を通して明るく、そして何より落ち着ける。
そしてその上に上れちゃうという遊び心もとっても素敵だ。
◇ ◇ ◇
以前住んでいたアパートで使っていたというご主人の手作りの棚、
奥様が二十歳の時におとうさまから送られたという大きな机、
おじいさまが作って使われたいたというキャビネット。
伺えばきりがないけれど、と渡辺さんがおっしゃるように、
味わい深い家具が随所に置かれていたことも、とても印象的だった。
家具は、お引越しをすると使いづらくなってしまう場合もあるけれど、
やっぱりこうして、ひとつずつ手に入れてきたものを
大切に使いつづけられるといいなと思った。
そして、それらとどこか感覚が通づるような造作のキッチンもまた、
今回新たに加わった家具のひとつのように簡素で美しく、味わい深かった。
建築家はご主人のお兄さんだということが、
こんなとこやあんなところ、空気でちょっと、うなずける気がした。