渡辺篤史の建もの探訪ー帽子型屋根の伝統構法の家(山田哲矢、建築設計事務所 山田屋)

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感想: 

お盆過ぎたら、ポン、と秋になってしまったよう。
夏の暑さがどんなだったかすら、なかなか思い出せない涼しさ。
なんだか寂しいけれど、まだ8月。
  
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「帽子型屋根の伝統構法の家」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/30
愛嬌のある大人の建物。
 
             ◇ ◇ ◇
 
あ!おじゃる丸(NHKでも放送中のアニメhttp://www9.nhk.or.jp/anime/ojaru/)!!
木造平屋の屋根の真ん中が、帽子のように突き出た建物。
次回予告でその外観がちらっと紹介されたのを見て、
その建物に、思わずおじゃる丸を重ねてしまった私。
とっても興味をそそられて、番組の放送をとっても楽しみにしていた。
うん。やっぱり、エボシを頭にのせたおじゃる丸。
おんなじことを思ってこの建物に愛着を感じている街の人が、
きっといると思う。
 
美しいというよりは、愛嬌がある。
何だろう?何の建物だろう?あのエボシみたいな屋根、なんだろう?
興味津々で前を通る人々が、思わずじっくり建物を眺めてしまうような
歩道と建物の近さも嬉しい。
ぜひ見てね、が、建主さん、設計士さん、職人さんの思いのはずだと、
やっぱりみんな、じっくり眺めてしまうと思う。
 
今回の建物は、釘、金物を使わない木組み、
柱が石の上にのっているだけの石場建ての足元、
といった伝統的な工法で建てられている。
奥様は茶道の師範でいらっしゃるとのこと。
本格的な茶室のある平屋は、普段の暮らしのためだけではない
ちょっと特別な緊張感も感じられた。
 
              ◇ ◇ ◇
 
「扇登り梁」という梁が、エボシの付け根から軒へと放射状に架けられていて、
茶室、LDK、寝室のどの部屋も、その梁を見せた力強い天井になっている。
そして、何よりの見所は、梁の先端がまあるく集まるエボシの付け根。
その丸の上に、エボシがぐうんと高く持ち上げられて、
てっぺんの天窓からは光が差し込む。
 
構造の美しさを、エボシを設けることでさらに美しく、劇的に見せ、
そして、なんとも言えない不思議な空間が生み出されていた。
愛嬌のあるおじゃる丸のエボシの中は、実は神聖ささえ感じる空間になっていたのだ。
エボシの真下は廊下と洗面所になっていて、天井が抜かれたトイレからも
天窓を見上げることができる。
夜、トイレで座ると、天窓からお月さまが見えるんです。
と奥様はとっても嬉しそうだった。
 
そもそもエボシは、夏場に暖気を逃して風の流れを生み出すために設けられたものだという。
気になるのは、この効果のほど。
以前、川越の「田園の大きな切妻屋根」の家でも、
同じような仕組みが取り入れられているのが紹介されていた。
その川越の家は、建物全体が一部屋のような開放的な空間になっていたので、
その風の流れの気持ちよさがイメージできて、見ているだけで涼しかった。
しかし今回のお家は、茶室、LDK、寝室の3部屋どれもが、
閉じられた部屋、または閉じて使う部屋という印象があったので、
風、通るかなあ?と思うのだ。
 
              ◇ ◇ ◇
 
この建物のような伝統工法の家は、やっぱり技術が持つ美しさや力強さが素敵だなと思う。
住みつなぎたい建物だと思う。
でも、自分たちの家を建てる時に選ぶか、と言われると、
選ぶにはやっぱりすごく勇気がいる。
今の生活スタイルを持って、どう美しく暮らすか、
どう建物に負けずに暮らすか。
それをやってのけるには、なかなかの美意識と気概がいりそうだ。