渡辺篤史の建もの探訪ー緑あふれる街の山小屋(高橋修一、住まい塾)

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建もの探訪ファン
感想: 

出産のお祝いにいただいたカタログギフトで、おままごとセットを注文した。
それがまた、手作り段ボールハウスにぴったりサイズ。
この狭い遊び場の楽しそうなことといったらない。
 
             ◇ ◇ ◇
 
今回の建ものは「緑あふれる街の山小屋」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/28
 
山登りが趣味のご夫妻が、山小屋のような、という希望を出されたという。
私はちょっとしたハイキング程度しか経験がないから、
本当の「山小屋」をよく知らない。
そんな私だけれど、この「山小屋のような」ということ、
ただ佇まいとしてということではなく、そこでの暮らしのことなのだな、
と、心に響いた。
 
             ◇ ◇ ◇
 
この建ものを作り上げた《住まい塾》。
私は、今回の番組での建物の紹介を見て初めて知った。
設計者、工務店、建設に関わる様々な職人、造園家、家具作家、工芸家、など、
伝統工法を大切にした住まいづくりへ共通の思いを持った
様々な職種の人々が参加されていて、
日本全国700棟ほどの家を完成させているという。
 
いいものってぇいうのは、こういうもののことをいうんだよ。
この家づくりに関わったそれぞれの人がそれぞれに、
胸を張って出してきたものが、がっちりと合わさった作品。
そういう隙のない、工芸品のようなお家だと感じた。
 
気負って住んだらお家に負けてしまいそうだ。
建主である林ご夫妻は、建物に身を委ねるようにのびやかで、
私たちの思う、いいものって、こういうものなんだよ、
とまっすぐ思う「主」の強さのようなものをお持ちで、
この家の主としてのありようがとっても素敵だった。
 
確かな材、丁寧な職人仕事、そういうものを存分に画面から感じた。
そして、それが合わさる空間づくりの美しさも。
その上で、建築費にびっくりした。
こんな価格でできるんだ。
ネットワークの妙、誠実の積み上げ、といったところだろうか。
もちろん、安いものではない。
でもきっと、いいお金の使い方をした、と思えるだろうな。
 
           ◇ ◇ ◇
 
まずはやっぱり、森に建つ山小屋というその佇まいに惹かれる。
前庭には道路との境界に塀をつくらず、
雑木林のような木立が、やんわりとプライベートの空間を守る。
そのあり方が、すごく素敵だった。
これまで見たことのある「庭」や「アプローチ」とはひと味違って、
まさに家の前に森(林?)を作った、という感じ。
緑の気持ちよさももちろんだけれど、街に対して、通る人に対してなんだか謙虚で、
ほっと、優しいお家だなあと思うのだ。
 
外の気持ちいいを、楽しく感じる場所がある。
広ーいデッキに木立のてっぺんを触れそうなベランダ。
ベランダの手すりはシンプルで軽やかなつくり。
ご夫妻は、ベランダの縁から足をぷうらぷうらさせて座る。
木登りして枝に腰を下ろすみたいに。
 
             ◇ ◇ ◇
 
建築家の言葉で、「吹き抜けを介したワンボックスのような家」と紹介がある。
個の空間にこだわらず、家族を思いやり、
家族が共にいる時間を家族全員で楽しまれてきたご家族だからこその、
潔い選択だと思う。
このことが、「山小屋のよう」なのだなあと思うのだ。 
 
特に寝室は、小上がりの畳敷きに4人(と0歳児)が並んで眠るかたち。
その寝室内に設けられたワークデスクで子供達は試験勉強をする。
上の娘さんたちはもう、12歳と13歳だから、
小さいから一緒に、ということではない。
 
吹き抜けに面した2階の多目的なスペースは、
将来は子供室にとの紹介はあるけれど、このご家族の様子からは、
子ども個人の空間を与える、というよりは、
あくまで、大きく育ちゆく子ども達に必要な生活空間を整える
ということだと感じた。
基本は、どこまでも共同生活。
 
 
今回の建ものは、伝統工法で丁寧に仕上げられた建もの。
その建ものそのものが持つ力がとっても強くて、なんだか圧倒されたけれど、
今、家族を育てはじめた身にある私には、
それに負けない芯のある建主ご一家のことが、強く心に残った。