渡辺篤史の建もの探訪ー田園の大きな切妻屋根(澤秀俊、テーラードデザイン研究所 飛騨高山アトリエ)
とうとう、119番通報。
折りたたみ椅子のヒンジに小さな中指が巻き込まれ、もうなんとも動かせず、
指がすっかりつぶれたのじゃないかとかーさんは真っ青で、救急を依頼。
小さな指のために、おおーきな消防車と救急車が到着したのには恐縮だったけれど、
さすがのプロは速やかで、柔らかい小さな指は大事に至らず、ほっと胸をなで下ろし、
そしてかーさんはその怠慢に大反省の日となった。
◇ ◇ ◇
今回の建ものは「田園の大きな切妻屋根」。
http://www.tv-asahi.co.jp/tatemono/backnumber/#!/2015/24
やっぱり切妻屋根は美しい。外へ開く田園生活。
◇ ◇ ◇
「家」のこんなあり方があるのだと、
そういうことを、深く感じた。
正直、番組を見ていた時は、半信半疑。
いくらなんでもあけっぴろげすぎるでしょう?
いくら前が田んぼだからって、広間の掃き出し窓をこんなふうに開けたら、
道路には人も車も通るし、きまりが悪いでしょう?
しかし、番組HPの「建築家のひとこと」には素敵なことばがあった。
”全面道路を横切る車の多くは減速して興味深く覗き込み、
道行く人々は会釈をしていく。・・・・・・
開かれた大屋根の住まいは、この地に新しいコミュニケーションを
生み出しているようだ。”
遠くからでも目を引く美しい切妻屋根はこの地の人々を惹きつけ、
中川家の公平さ、大らかさがそんな人々を快く受け入れ、
そして素敵なエネルギーを発信している。
これが、中川家にとっての「家」。
「家」というか、「家庭」のあり方。
そう思うと、なんだか胸がいっぱいになった。
建ものが提案する家、家庭のあり方を、
しっかり受け止めて自分達のものされているところが、
素晴らしいなと思った。
◇ ◇ ◇
とても開放的な大きな掃き出し窓があって、
しかも破風はガラス張りというあけっぴろげ具合だけれど、
それでも不思議な安心感がある。
全面のうち、ちょうど半分が掃き出し窓、
半分が玄関ドアのある壁になっていて、
この壁になっている側半分に、台所と食卓、
そして寝室や水回りへの入り口が収まっているところが、
この不思議な安心感を生んでいるのではないかと思う。
玄関ドアを開けるとすぐに台所と食卓があるのだけれど、
このお家の玄関は、どうも勝手口のような雰囲気。
「お客様」をお迎えする入り口ではなくて、
家族が帰ってくる入り口、気取らぬ楽しい仲間がふらり入ってくるところ。
家庭の要の台所、家族の中心食卓はやんわりと壁に守られて、
そして気持ちよく開いた広間は、周囲の田んぼにつながっている。
台所と食卓から広間を眺めたら、広間は野外ステージみたいだ。
どーんと大屋根を見上げる大空間だけれど、
こんなちょっとしたメリハリが、とても優しくて素敵だと思う。
◇ ◇ ◇
そして、「風の間」のことも忘れてはいけない。
煙突のように突き出した「風の間」は、
上昇気流を作り出し、そこの窓から家全体を換気できる仕組みだそう。
心も体も、悪いものがたまりそうにないお家だ。
◇ ◇ ◇
同窓の建築家の活躍と建主の感性に、
身の引き締まる思いもした。