建築家の家は住みにくい?
はてさて、「建築家の家は住みにくい?」とは面白いテーマですね。どのくらいの人が建築家の家は住みにくそうだなあ、あるいは勝手に設計されるのじゃあないかなあ等と思っているのでしょうか。イメージとしては、比較的多くの人が思っているのではないかなあと考えてしまいます。
有名建築家(スター建築家)は多くの雑誌を賑わし、世の中はそれが所謂トレンド(傾向)と思ったりしますから、そのようなイメージを持たれているのかなあと推察してしまいます。所謂、普通に過ごしやすい住宅というだけでは、雑誌には載りませんから、雑誌に載せるためには何かポイントとなる新しいアイディアや空間づくりが必要になります。で、それは新しい住まい方を要求するものでもあるので、概して住み辛いのでは?と一般の方が想像してしまうことがあると思います。
たとえば、有名な安藤忠雄氏の「住吉の長屋(東邸)」というコンクリートの住宅がありますが、これは大阪によくある文化住宅という、最近の言葉でいえばテラスハウスでしょうが、専門的には長屋というカテゴリーに分類される、いくつもの住宅が横にくっついて並んで建っている建物の一住居を取り壊してそこにコンクリートの箱を押し込んだような住宅です。(確かここは三軒長屋の真ん中だったと思いますが)これは道路側には入口のドアしかなく、入ると居間、その向こう側には雨が降るのもかまわず、空の見える中庭、そしてその中庭をはさんで向こうに食堂、その奥が浴室、便所、中庭から屋外階段で2階に上がると居間の上と食堂部分の上に寝室がひとつずつという、寝室からトイレに行こうと思ったら雨降りだったから、我慢しようかなどということも起きかねない住宅です。この住宅は建築学会賞という権威ある?賞をいただいています。この年はなかなか賞に値する建築がみつからず、審査員たちが最後にたどり着いて、「みなさん、やっと決まりましたね。でも施主にあげたくなります。」と言ったということですが、そう、住まい手は相当覚悟を持って住まなくてはなりません。この住宅のポイントは、空が見え、二つの寝室を結ぶブリッジがかかる中庭です。これを受け入れなければ、ただ単に住みずらい家ということになります。いまだにこの住人は原設計のまま住まい続けているということです。
このように、住み辛いかどうかはその住まい手が判断するものですが、設計者は依頼人である住まい手によーく説明して、納得してもらったうえで設計をしなければいけないということは肝に銘じなければなりません。施主である皆様には、設計者の考えに惑わされず、恐れず、ご自身の考え、住まい方・生活感などをしっかりと伝えて、ひとつひとつ吟味して建築されることを願っております。