わざと弱く作る技(構造スリットのことなど)

ユーザー 木の家プロデュース 明月社 山岸飛鳥 の写真

わざと弱く作った建物に住みたいですか?
誰でも嫌ですよね。
 
でも、建築には随所に「わざと弱く」してあるところがあります。
構造スリットもそのひとつ。

これはうちの事務所から見えるマンションの写真です。(私の設計ではありません)
1階分の柱の長さは緑の矢印ですが、バルコニーの手すりが取り付いている部分はものすごく強くなるので、実際は青の矢印の長さということになります。
 
柱がひょろ長いよりも、短い方が強そうです。
ところが、短い柱は「せん断」という力には弱いのです。
茶色の矢印が、ハサミの刃だと思って下さい。巨大なハサミで柱をチョキンと切るのです。
矢印と矢印が離れているユルユルのハサミより、近づいているハサミのほうが良く切れますよね。
 
それと同じで、短い柱はハサミ切り(せん断)には弱いのです。
私がよくおぼえているのは、阪神淡路大震災の時の三越大阪店です。歴史的な建築でしたが、柱がのきなみせん断破壊されて取り壊しになってしまいました。

そこで、最近の建物は、赤い線の部分に「構造スリット」を入れます。
この部分は、見た目はくっついていますが、中にはコンクリートも鉄筋もなくて、大地震の時には真っ先に壊れるようにできています。
壊れてしまえば柱の長さは緑になるのでせん断破壊されない、というわけ。

見るからにスリットというケースも良くあります

これも事務所の窓から見えたマンションです。
こういう隙間はよく見かけると思います。

構造スリットは木造住宅ではほとんど使われませんが、同じように「わざと弱く作る」ことで、他の大事なところを守る、という考え方は随所にあります。

地震に耐える耐力壁も、やたらと強いとかえって建物が歪んでしまうこともあります。
耐震金物が強すぎて基礎のコンクリートが破損したり、柱が裂けてしまったり。

建築物の強さというのは、実はそういうバランスの上に成り立っているのです